名古屋高等裁判所 昭和34年(く)10号 決定 1959年4月30日
抗告人 伊藤一則
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件即時抗告の趣旨は、抗告人の差し出した即時抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
抗告人の本件勾留が昭和三十二年十一月七日以降現在にいたる、所論のように相当長期間にわたるものであることは関係記録に徴し明である。
しかし乍ら勾留の取消原因とされている刑事訴訟法第九十一条第一項の不当に長い勾留というのは、もとより単なる時間的な観念ではなくして、事案の性質、態様、審判の難易、被告人の健康状態その他諸般の状況から、総合的に判断さるべき相対的観念と解すべきであるが、本件について考えると、関係記録によれば抗告人の本件勾留は昭和三十二年十一月二十六日附起訴状記載の詐欺事実によるものであるが、抗告人に対しては、さらに昭和三十三年一月十四日附の起訴状によつて同じく詐欺事実について追起訴がなされており、その内容は、右両者を合すると、計百八十二回にわたる被害総額千六百五十三万円の巨額に達する詐欺事実に関するものであるのみならず、抗告人には右事件と併合審理されている昭和三十年四月十四日附起訴状による傷害被告事件と昭和三十一年九月四日附起訴状による詐欺被告事件があり、ことに右のうち後者の事業はこれまた、二百四十五回に及ぶ被害総額実に千百七万四千五百十八円という巨額の詐欺事実に関するものであつて、原裁判所が本件併合事件について取調べた証人の数もすでに二百名余にのぼつていること、また原裁判所は勾留期間中被告人の健康状態を考慮し、昭和三十三年七月十一日から同年九月十一日迄の二ケ月間と昭和三十三年十二月二十七日から昭和三十四年一月二十二日迄の二十五日間の勾留の執行を停止したことその他諸般の状況を総合して考えてみると、被告人の本件勾留はまだ前記刑事訴訟法第九十一条第一項の不当に長い勾留として、いま直ちにこれを取消さなければならぬというほどのものとは認め難い。したがつて抗告人の本件勾留取消の申立を却下した原決定は相当であつて本件即時抗告は理由がないので、これを棄却すべきものとし主文のとおり決定する。
(裁判長判事 小林登一 判事 中浜辰男 判事 成田薫)